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高松高等裁判所 昭和45年(ラ)37号 決定 1971年12月20日

抗告人

株式会社徳島相互銀行

相手方

山崎健二

主文

原決定を取消す。

相手方の本件異議申立を却下する本件異議申立および抗告の費用はいずれも相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙一に、また相手方の異議申立の趣旨および理由は別紙二に各記載のとおりである。よつて判断する。

一記録によれば、つぎの如き事実が認められる。すなわち、

(1)  抗告人は、昭和三六年一一月二一日相手方である債務者山崎健二から別紙目録記載の不動産に対する共有持分につき他の不動産を共同担保として相互掛金契約、手形取引契約、当座貸越契約、証書貸付契約等に基づく債権元本極度額を金二、〇〇〇万円とする根抵当権の設定を受け、翌二二日に右根抵当権登記を経由し、右同月二一日相手方山崎健二に対し金二、〇〇〇万円を貸与したこと、(2)その後相手方は右債務を弁済せず、かつ、別紙目録記載の不動産を第三取得者エイエス工業株式会社に譲渡したこと、(3)一方抗告人はその後右第三取得者に対し右根抵当権実行の通知をしたところ、昭和四二年九月一八日右第三取得者から金七〇〇万円で右根抵当権を滌除する旨の通知を受けたので、さらに抗告人は同年一〇月一四日、右第三取得者に対し増価競売の請求をなし、右請求は翌一五日第三取得者に到達したこと、(4)そして抗告人は翌一〇月一六日徳島地方裁判所に本件増加競売の申立をしたところ、右申立の時には現実に代価および費用について担保を供していなかつたが、その後同月一八日右同裁判所に右増加競売の価格および費用についての担保として現金八〇〇万円を供した(その後額面金一、六〇〇万円の有価証券に変換)ので、同裁判所は同月二八日、請求債権者である抗告人方の職員増田隼視、第三取得者山崎健二(本件相手方)を審尋の上、同月三〇日右担保認許の決定ならびに本件増加競売開始決定をしたこと、以上の如き事実が認められる。

二ところで、増加競売の請求をする債権者は、第三取得者に競売の請求を送達した日より三日以内に管轄裁判所に競売の申立をするとともに、代価および費用についての担保の認許を求め(競売法四〇条一項)、かつ、その際に右担保を現実に供することが必要であるが(民法三八四条三項)、右担保の供与は、競売の申立と同時になされなかつた場合であつても、右競売申立の法定期間、すなわち第三取得者に競売の請求を送達した日から三日以内に右担保を供すれば、右担保を供しなかつた競売の申立の瑕疵は治癒されて適法になるものと解するのが相当である。

本件においては、前記のとおり、抗告人が第三取得者に競売の請求を送達したのは昭和四二年一〇月一五日であり、競売申立期間の計算にあたつては初日を算入しないから(民法一四〇条参照)、本件競売の申立期間は同月一六日から一八日までとなるところ、抗告人は右最終日の一八日に現実に担保を供したのであるから、同月一五日担保を供せずになされた本件競売の申立の瑕疵は治癒されて結局適法になつたものといわなければならない。したがつて、本件競売の申立は、その申立と同時に担保の供与がなかつたから無効であるとの相手方の主張は失当であり、右相手方の主張を採用した原決定は不当である。

三つぎに、相手方はその異議申立の理由として、本件競売の申立と同時に担保の認許を求める旨の申立がなされていないから、本件競売の申立およびその後申立債権者である抗告人第三取得者を審尋してなされた担保認許の裁判は当然無効であり、したがつて本件競売開始決定も違法であると主張しているので、この点につき判断する。

記録によれば、本件競売申立書には、担保の認許を求める旨明確には記載されていないが、右申立書には、「担保の表示」と記載し、そのつぎの金額欄は「金○○円也」として具体的な金額が空白となつている外、第三取得者が提供した金額として金七〇〇万円也、請求者が定めた金額として金七七〇万円と記載されていること、また同年一〇月一八日には、本件増価競売の代価および費用として金八〇〇万円を納付する旨の同日付納付書を徳島地方裁判所に提出していることが認められ、かかる事実その他一件記録に徴すれば、競売申立債権者である抗告人は、右競売申立書および担保納付書を提出することによつて担保の認許を求めているものと解するのが相当である。よつて、右担保の認許を求める申立がないとのことを前提とした右相手方の主張は失当である。

四なお、その他記録を精査しても、本件競売開始決定が違法であるとは認め難い。

よつて、原決定は不当であるからこれを取消して相手方の本件異議申立を却下し、本件異議申立および抗告の費用につき民訴法九五条八九条を適用して主文のとおり決定する。

(合田得太郎 谷本益繁 後藤勇)

(別紙 一)抗告の趣旨

原決定はこれを取消す。

抗告人からした増価競売の申立は理由がある。

との決定を求める。

抗告の理由

徳島地方裁判所昭和四四年(ヲ)第三四号執行方法に関する異議申立事件につき昭和四五年八月五日同庁がなした決定書の理由、第一項第二号で抗告人(債権者)が同庁になした増価競売申立事件につき抗告人(債権者)が現実に担保を供したのは競売法第四〇条に規定した期間経過後のため右増価競売申立は無響であると述べているが、該申立が競売法第四〇条と規定する三日内の申立期間は一般法たる非訟事件手続法により初日を算入しないとするのが相当である。

しかるに抗告人(債権者)が増価競売をなし担保を供したのは競売法第四〇条所定の期間内にあるので右決定は失当であると思料するので本件抗告におよんだ次第であります。

(別紙 二)異議申立の趣旨

昭和四二年(ケ)第一三〇号増価競売事件についての昭和四二年一〇月一六日付不動産競売手続開始決定はこれを取消す。

右増価競売申立を却下する。

訴訟費用は被申立人の負担とする。

との御裁判を求める。

異議申立の理由

一 本件増価競売申立と同時に競売法第四〇条所定の担保の認許の申立がなされていないから右の申立は無効である。

二 本件増価競売申立債権者である被申立人が第三取得者エイエス工業株式会社および債務者である申立人に対して増価競売請求書を送達したのは昭和四二年一〇月一四日であるから担保を供すべき日は競売及び担保認許の申立をなすべき日即ち同月一六日、又は増価競売請求書を送達した日より三日以内即ち同月一七日であるにもかかわらず、申立債権者が本件につき担保を供したのは同月一八日である。従つて本件競売申立は無効である。

三 本件につき昭和四二年一〇月二八日の審尋におい申立債権者および第三取得者に対して担保の許否についての審尋が行われたが、前記のとおり担保の認許が行われての申立がなされていないのであるから、申立なくしてなされた右審尋に基づく担保認許の決定は民事訴訟法第一八六条に違反し、実質的には担保の認許の裁判としての効力を有しない。従つて本件競売開始決定は担保認許の裁判なくしてなされた違法のものである。

よつて、申立の趣旨記載どおりの御裁判を求めるため本申立に及んだ次第である。

目録《省略》

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